2013年8月15日木曜日

HSPプログラミングコンテスト最優秀ゲーム賞の思い出

実写でボクシングがHSPプログラミングコンテストで最優秀ゲーム賞を受賞したのはもう16年位前ですが、あの感動を忘れないよう当時の思い出をこのページに書き残します。



二年間に渡って運営された私設ボクシングジムは諸事情により閉鎖となった。まさに志半ば、私は半年ほど呆然として過ごしていたように思う。



ついこの間まで練習生がスパーしていた部屋。
まだグラブの匂いがするが、もうボクシングを教える事はできない。

いつの間にか人を疑うようになってしまった。
誰にも会いたくない。なのに心のどこかでは誰かに拳闘を伝えたがっている。

ボクシング、ボクシング、ボクシング。
寝ても覚めても頭の中はボクシングだった。

(実際に会って教える以外にも方法があるんじゃないか?)
(…ボクシングゲーム?)
(仮に自分が死んでも伝わり続けるという点で素晴らしいアイデアなんじゃないだろうか!?)
(俺はこのチャレンジを絶対に途中で投げ出さない! ボクシングをゲームで伝達するんだ!)

決意してからは「ボクシングゲーム」について徹底的に考え続けた。

キャラクターに実写を使うことで、よりリアルなイメージやサイズを再現できるはず。
作品の名前は「実写でボクシング」としよう。

ビデオカメラの前で久々のヘッドギア、ゆっくりとシャドーボクシングをする。
この動画から静止画を一定間隔で抜き出せば、滑らかに動くボクサーキャラクターを作ることができるはずだ。



仕事で運転中、赤信号で止まるたびに余ったレシートの裏側に思いついたアイデアを書いていく。
帰宅、パソコンモニタの前に昼間のアイデアを並べていき、実現すべくキーボードを叩いていく。
(この生活が10年近く続いているのはもう異常事態かもしれない)

コンピュータープログラミングの世界は、門外漢にとって専門用語だらけだ。難しすぎて理解できない要素が山ほど出てくる。
これらひとつひとつに立ち向かっていたら開発が停滞してしまうので、理解に時間がかかりそうだなと思ったら意識的にスパッと諦めて、実現できる部分を優先して作業…。
とにかく開発の流れを一時も止めずに前へ前へと歩み続け、成果を出し続ける。
この選択は個人的に大正解だったと思います。素人プログラマーが投げ出すことなく、自分の作品をきちんと完成できた、大きな要因だったと…。

昨日の実現の上に今日の実現が積み重なっていき、常に作品が成長していく日々。

  • 灰色の画面にボクサーを表示させる事に成功して眠る。
  • 次の日は向かい側に対戦相手のボクサーが表示され眠る。
  • 次の日は前後にボクサーが動くようになり、次の日はパンチを放つ。
  • 次の日には二人に当たり判定が追加される。
  • やがてジャッジシート、天井のライト、コーナーポストなどが増えていく。

徐々に画面の中がボクシングになっていく快感が開発意欲を燃やし続けてくれました!



途中からはもはや「プログラミングをしている」という意識よりも「ボクシングを作っている」という意識の方が強かったと思う。
ジム閉鎖により行き場所を失っていたボクシングへの情熱が、日々勢いを増してキーボードに叩きつけられていく。

ゲーム作者としてプログラミング→元ボクシングジム会長としてプレイする→ボクシング的違和感に不満→ゲーム作者として修正する→…が繰り返されていく。ふたつの人格が戦争をしているようだった。

  • 違う、ワンツーってのは色々なタイミングで打ててこそワンツーなんだ!
  • スウェーは後ろ足への負担が強い、これ以上やったらピクピクものだ!
  • 顔面密着ガードにフックを叩きつければこの程度だろう
  • ジャブの最中に危険を感じたらスッと防御できるあの感覚、まさにこれだ!
  • 正面衝突、目の前が真っ暗になるあのダメージ、数値に直すと100オーバーだ!

奥深いボクシングの全てを、痛みのない平面世界で再現することは不可能だ。ただ少しでも現実に近づきたくて、意地になって調整していく。
夢中になって叩き続けるキーボード、開発作業が終わる気配はなかった。


やがて区切りとなる日、HSPプログラミングコンテストの締め切り日がやってくる。

注げるだけ情熱を注ぎ込んだボクシングゲーム「実写でボクシング」を圧縮してHSPプログラムコンテストの応募ページにある「送信ボタン」を押す。
画面に「送信が完了しました」の文字が表示され、区切りとなるタイミングが終わった。

もしかしたら、応募できた満足感から開発作業も一段落するんじゃないかと思っていたのですが、翌日もその翌日も、開発への熱意は止まりませんでした。
ボクシングを再現したい、ボクシングを伝えたい!という想いが自分の原動力なんだなと再認識しつつ開発を続ける日々…。


数ヵ月後、ある日の午前中、何気なく行ったメールの送受信。
「件名:HSPコンテスト入賞のお知らせ」
きっと参加賞だろう、と思って開いたので最初は目を疑いました。

「最優秀ゲーム賞 実写でボクシング」

パソコンの前で仰け反りながら「おぉぉぉぉぉーーーーっ、やったーーーーーーーっ!」と大声を出すと、隣の部屋で洗濯物を干していた妻が飛んできました。同じくらい大きい声で喜んでくれて、二人で文面を何度も読み返したのを覚えています。

この時の喜びがきっと今でも私の背中を押し続けているのだと思います。

数日後にコンテストの公式ウェブサイトでも発表があり、審査員による作品評も記してありました。
どのコメントも私にとって嬉しい内容、以下に転載させていただきます。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

審査員「おにたま」のコメント

ボクシングへの思い入れだけで作られているのでなく、初心者に対しての気配りなど遊ぶ側を意識している点が秀逸でした。
育成ゲームとしての面や、適度な難しさのアクションなどが良い具合に溶け込んでおり、何とも不思議な味わいの、それでいて作りこまれたゲームに仕上がっていると感じました。
HSPが、自分の目的を達成する役に立っていることを嬉しく思います。

審査員「うすあじ」のコメント

ボクシングに対する情熱が身を結んだ作品です。
一見地味な画面かな?と思いますが、実際に遊んでみると奥が深く、操作やゲーム性に関して、深く考えられています。
ボクシングについて詳しく知らなければ作れないゲーム内容など、他の追随を許さないパワーがあります。
技術的にはもっと高度な作品はあるのですが、この作品には、他には無い、人を強くひきつける魅力を感じました。

審査員「悠黒喧史」のコメント

ボクシングへの深い情熱と、その楽しさを伝えようとする真剣さがそのまま作品の質になっていると思います。
実際にプレーする人のことをよく考えて作られており、地味ながらとてもじっくりと楽しめる作品になっています。
技術的な完成度以上にゲームの内容を高く評価できる作品に巡り会えたことを、コンテスト主催者の一人として大変嬉しく感じました。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

翌日から私宛に実写でボクシングに対しての要望やバグ報告が大量に寄せられました。これまで孤独だった開発作業でしたが、受賞以来は一度も孤独を感じたことはありません。(ユーザーの皆さん、本当にありがとう!)

コンテスト終了後の開発作業には締め切りもなく、精神的に余裕が生まれました。かつて専門用語を理解できなくて実装を諦めた要素にもじっくり取り組むことができました。



翌2005年には100円ショップダイソーでの販売開始、2006年には念願のネット対戦を実装、2007年には実ボク専用の自宅サーバを設置。Perl言語cgiによるデータ管理を実現し、チャンピオンベルトを巡る戦いを楽しむことが…!

2020年現在、開発・活況はまだまだ続いています(昨日のスパー状況)。

かつて私は私設のボクシングジムで12名の若者にボクシングを教えましたが、実写でボクシングを通じてボクシングに興味を持った人はもしかしたら何百人、何千人も…?

実写でボクシングはボクシングを伝えたいという私の夢を叶えてくれました。2004年以降、ずっとずっと叶っています!

(関係しているすべての事柄に)ありがと~うっ!」




HSPプログラムコンテスト最優秀ゲーム賞、受賞作品!
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「勝利」という結果を純粋に追い求めていたあの頃を再び!
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